佐藤可士和さんへ、読者からの質問

デザインノート74号で、特別特集を展開中の佐藤可士和さんに、読者に向けて質問を募集したところ、たくさんのメールが寄せられました。デザインのことはもちろん、お悩み相談からプライベートなことまで、余すところなく答えていただきました。

「CREATIVE」

Q:ディレクターとしての関わりが多いと思いますが、デザイナーとして実際に手を動かしてデザインの作業をするということは今はどの程度されているのか、またその場合はどういう基準で自らが関わる場合が多いのかお聞かせください。もしかすると今でもすべての仕事に何らかの形で自らの手が加わっているのかもしれませんが。(浩二)

A:当たり前ですが、SAMURAIを始めた17年前と今では大きく状況も変わっています。当初はデザインから版下制作まで自分の手でやっていました。ただ、ここ5年くらいは意図的に僕が手を動かす作業は減らしています。それはひとえにスタッフが育ってきたから。僕が手を動かさなくても、みんなきちんと仕上げていきます。もちろん、アイデアスケッチなどは今も描いています。

Q:広告に関わっている以上、良きにつけ悪しきにつけ結果を受け止めることになります。この結果が当初掲げた目標に達していなかった場合、受動的ではなく能動的にどう行動し、次にどのように繋げていきますか?(AD)

A:日々の仕事では、結果を第一に考えて取り組んでいます。プロジェクトによって、商品の売り上げを伸ばす、ブランドの認知度を高めるなど、目標や目的はさまざまです。もちろん、すべてが上手くいくとは限りませんが、基本的に僕の仕事は「どう改善していくか?」を形にすることですから、次につなげていくというよりも、常にそこを意識して、一つひとつのプロジェクトに臨むようにしています。

Q:地方でフリーランスでデザイナーをしています。例えば、商品パッケージのデザインなどを進めるとき、デザインのことをわからない人とデザインの話をし、その人の指示を仰がなければなりません。商品をもちろん売りたいし良くしていきたいのですが、虚しくなることも多いです。クライアントとどんな風に接すれば、良い関係が築けるのでしょうか?(早希)

A:クライアントと対峙するのではなく、横に座って一緒につくっていくという姿勢が大切だと思います。目的は同じわけですから、相対するよりも同じ方向を見るべきです。デザインについて詳しくないのは、クライアントも消費者も一緒。デザイナーを特別な存在だと考えていると、一般社会に広くデザインのことは理解されないのではないでしょうか。僕はそう考えています。

Q:好きな配色の組み合わせを教えてください。可士和さんの作ったロゴは、赤と青が基調になっているものが多い気がするのですが、意識をしているのでしょうか?(健介)

A:デザインにおける色というものは、形や大きさ、バランスと一体となって印象を決めるものです。なので、色の組み合わせだけの好き嫌いはありません。また、赤と青の組み合わせに関しても、一つひとつのプロジェクトによって、それぞれ最適な回答を導き出している結果なので、特に意識はしていません。

Q:いいデザインと売れるデザインはイコールなのでしょうか?(花岡美咲)

A:必ずしもそうではないと思いますが、僕はいつもそこを一致させたいと考えています。

Q:デザインコンペで審査をされることも多いと思いますが、何を一番重要視してご覧になっていますか?(高田健太郎)

A:そのコンペの主旨に合っているかどうか。コンペの目的が何かをいつも頭に置き、それぞれのデザインを審査するようにしています。

「デザイナーたちの悩み」

Q:デザインラフの段階では、自分の納得のいくデザインになるのですが、いざパソコンで制作すると想像とは違うものになってしまいます。なぜなのでしょう?(Sanshiro)

A:ラフのイメージに合わせつつ、それを超えるまで突き詰めていますか? ラフのイメージを超えるのは実はとても難しいことです。いかに頭の中にあるイメージを現実が超えていくかという作業こそがデザインです。

Q:プレゼンをするときに緊張するのもありますが、いつもうまくいきません。上手にプレゼンをする秘訣を教えてください。(平田希望)

A:プレゼンする前に、本当に自分の考えがまとまっているか、細部まで考え抜かれているか。そこが一番大切だと思います。その状態まで到達していれば、後は素直に内容を話すだけで上手くいくんじゃないでしょうか。それから、必ず相手の立場に立って、どこから話したら理解してもらえるか、独善的なロジックに陥っていないかなどを検討しておくこと。自分の視点だけで話してしまうと、相手には伝わりにくいものです。

Q:インハウスデザイナーをやっていて、独立を考えています。その際に最低限知っておくべきことや必要なことを教えてください。(佑介)

A:物理的なことよりも、自分が独立して何をやりたいか。それが一番重要で、そのコンセプトが明確に決まっていなければ、独立してもなかなか思うようにはなりません。将来の自分の姿をはっきりイメージする。「独立すること」を目的とせずに、独立して何がしたいかを考えるのが最も重要だと思います。

Q:広告代理店に勤める新人デザイナーです。会社でなかなか即戦力として機能できず、どうにかしなければと焦るばかりで、全身に蕁麻疹が出るようになりました。先輩のデザイナーに相談し、聞いてみたいことがたくさんあるのですが、気恥ずかしかったりで、日々葛藤しています。可士和さん、アドバイスをお願いします。(雅仁)

A:新人なので即戦力になれないのは、ある意味当たり前なので、そんなに焦る必要はありません。もっと気楽に肩の力を抜いて。きちんと真面目に仕事に向き合っていけば、自然と力もついていきます。先輩や会社にいい意味で甘えて何でも聞く、学ぶ姿勢を持つことが大切ではないでしょうか。まずは学んでいくところが出発点です。

Q:佐藤可士和さん、こんにちは。私はコンプレックスの固まりで生きていくのが辛い時があります。可士和さんにはコンプレックスはありますか?(海)

A:いっぱいあります。コンプレックスがない人間なんて一人もいないと思いますから、あまり「克服する」とか「乗り越える」などと考えないでよいのではないでしょうか。

Q:クリエイティブディレクターとアートディレクターとはどう違うのでしょうか?(マンゴー)

A:一言で言えば、クリエイティブディレクターはプロジェクト全体を統括し引っ張っていく総合監督です。アートディレクターは主にビジュアルに関する領域の監督。それぞれ役割と立場が異なります。

「OFFICE」

Q:オフィスの改築を計画しているのですが、統一感があり、おしゃれに見える仕事場にするポイントを教えていただきたいです。(広沢)

A:空間のコンセプトをはっきりさせることが大切だと思います。そこが明確に決まっていなければ、表層的にデザインしてもオシャレには見えないのではないかと思います。

Q:ストレスがないオフィス環境とは、可士和さんにとってどんな環境ですか??具体的に聞きたいです。(上田正哉)

A:一切の無駄なものがない環境ですね。

「進路」

Q:私は芸術系の大学に通っていて、デザイナーを目指しています。卒業後に語学留学をしたいと思っているのですが、果たして帰国後に就職ができるのか不安を感じています。アドバイスをいただけたら嬉しいです。(麻由子)

A:デザイナーとして就職できるかどうかを心配するよりも、若い頃にやりたいことをやりきったかどうかの方が大切だと思います。語学留学して多様な価値観を経験しておけば、いろいろな意味で今の自分よりもレベルアップできるはず。未来の就職事情も現段階ではわかりませんし、まずは今の時点でやりたいと思うことに挑戦しそれをやり切ってみてはいかがでしょうか。

Q:こんにちは。この春から大学でデザインと経営の勉強をはじめた大学一回生です。学生ではありますがサークルの仲間たちと文房具などをデザインして販売するブランドを立ち上げることになりました。そこで、ブランドの名前やロゴを考える際のポイントや意識することはどんなことですか。また事業展開のプロセスについてアドバイスをいただけませんか。よろしくお願いします。(ルーレン)

A:ブランドのネーミングやロゴを創る際に心がけているのは、そのブランドのコンセプトを表現できているか、オリジナリティがあるか、記憶に残りやすいか、視認性が高いか汎用性があるか、耐久性があるか、などです。事業展開のプロセスについては、どういう状況かによって違うのでこれだけの情報ではアドバイスすることが難しいです。

「FASHION」

Q:佐藤可士和さん、いつも記事を楽しみにしています!いつもとってもお洒落な可士和さんですが、ファッションへのこだわりや好きなブランドを教えてください。(みい)

A:ファッションもすごく好きなジャンルの一つです。こだわっている点としては、世の中の流行よりも、今の自分にぴったり合っているかどうか。そして、さらに大切なのは、いろいろなシチュエーションに対して、自分の目的に合った服装を選ぶことができているかどうか。場の雰囲気から逸脱しないものをセレクトすべきだと考えています。

Q:僕は可士和さんと同年代の地方のデザイナーです。すごくどうでもいいことなのですが、いつもキリッとスーツで決めている可士和さんを雑誌等で拝見して、うらやましく思っています。スーツの選び方やファッションの着こなし方のこれを知っていればなんとかなる、と言うような極意を教えてください。(啓介)

A:スーツの着こなしにおいて、もっとも大切なことは適切なサイズを選ぶこと、すなわちサイジングだと考えています。そういう思いもあって、コナカのオーダースーツブランドの「DIFFERENCE」をトータルプロデュースさせていただきました。ぜひ、DIFFERENCEでスーツを仕立ててみてください。

「STAFF」

Q:チームで制作する際に全体のクオリティを維持するために一番気をつかっていることはなんですか?(TUBO)

A:常にそのプロジェクトのコンセプトがブレないように、クライアント、チームのメンバー、自分にもリマインドしていくこと。ブレない強さを持つコンセプトを立て、それを全員が共有し、忘れないことです。

Q:スタッフとの関係についてお聞きしたいのと、採用の際、決め手となるものを教えてください。(KM)

A:人間性が一番大切だと考えています。その上でSAMURAIの空気感を乱さないことです。SAMURAIという場をつくっている、ある空気感があり、そこに入っても何の違和感もないかどうか。それが一番重要で、インターンの採用のときもスタッフ全員で決定します。すごく優秀で能力が高くても、SAMURAIに合う、合わないは別の問題ですから。

「HEALTH」

Q:体型を維持するために気をつけていることはありますか?(ステッチ)

A:もっと運動をしなければいけないとは思っているのですが、15年くらい前から、パーソナルトレーナーをつけて、週に一、二度のトレーニングをしています。それから、できるだけ食事にも気をつけるようにしているつもりです。なるべく寝る前に食べないとか。お酒も控えなくてはと思っているのですが、これはなかなかできていません。

Q:夜はどうしても遅くなるし、時間は不規則で、肉体的にも精神的にもこの仕事はキツいと思います。心身ともに健全に保ちながら、仕事を続ける秘訣があったら教えてください。(栄)

A:自分自身でしっかり判断して休みを取ったり、リフレッシュすることです。例えば、夜は早く帰宅した分、次の日は早朝から頑張るという方法もあるでしょう。確かに自分だけでコントロールするのは難しい部分もありますが、少しでも生活を改善しようという意識を持つべきです。「仕方ない…」と思ったら、いつまで経っても改善はされません。

Q:可士和さんは、体にいいものしか食べないイメージがあります。毎日の食事はどんなものを食べていらっしゃいますか?(まりえ)

A:身体に良いものしか食べないようにしたいと思っていますが、なかなかそうもいきません。

Q:可士和さん、尊敬しています。毎日、スケジュールは秒刻みだと思うのですが、健康面も精神面も同じテンションを保つのはとても難しいことだと思います。常に一定に保つために心がけていることは何でしょうか?(木村)

A:物理的にも精神的にも、すべてのものを整理して、今一番何をやるべきかを把握しておくこと。きちんとプライオリティーを決めるためにも、常にあらゆることを整理するように心がけています。

「学生時代」

Q:学生の頃やっておけばよかったとおもうことはありますか?(おま)

A:1年でも2年でも海外で生活しておけば良かったかなとは思っています。短期間の旅行ではなく、留学のように、現地で暮らす経験ができていれば更に視野が広がったかもしれません。

Q:学生時代の出来事などで今のお仕事に活きているのもはありますか?(さーゆ)

A:4年間、パンクバンドを組み、ギター、作曲、プロデュースをしていました。ものすごく真剣に打ち込んでいたので、絵を描いたり、デザインすること以外で表現手段というものが自分の中で見つかったことが一番大きかったと思います。それが今の領域を限定しない活動のベースになったのは間違いありません。

Q:普段街中を歩いてる時など、どんなことを考えながら歩いていますか?また、学生時代に毎日していたこととかありますか?(ぼん)

A:ぼんやりと歩いている普通の自分を、クリエイターの自分が冷静に観察しています。例えば、何かを面白い、または嫌だなと感じたことを「どうしてそう感じたのか?」と分析してみたり。右脳で感じたものを左脳で整理するような…。学生時代は毎日作品をつくって、毎日ギターを弾き作曲していました。

「進路」

Q:海外での活動も多いと思うのですが、これからのデザイナーには語学力も一つのスキルとして必要だとお考えですか?また、今後は世界を視野に入れた活動をしていかれるのでしょうか?(瑛太)

A:語学力があればあるほどよいと思います。僕も語学のスキルが向上するように日々勉強中です。今後に関しては、もちろん、日本を含めた世界を舞台に活動を展開していきたいと考えています。

「MUSIC」

Q:最近はどんなジャンルの音楽を聴いていますか?また、お気に入りのアーティストを教えてください。(リュウジ)

A:お気に入りのジャンルやミュージシャンと言うよりも、何かの曲をカバーしたものがすごく好きです。カバーされたものを聴くと、原曲ではわからなかったよいところに気付かされます。パンクやレゲエ、ボサノバなどのアレンジでカバーされたものが特に好きです。

「FRIEND」

Q:以前、デザインノートで中田英寿さんと対談されているのを拝見いたしました。交友関係がとても広いと思うのですが、交友関係と仕事は可士和さんの中で、直結しているのですか?(ゆず)

A:直結しています。自然と「仕事=交友関係」になります。

「大切なもの」

Q:人生において大切にしているものは何ですか?(オゴセ)

A:クリエイティブマインドです。そして整理ですね。

Q:あと24時間後に地球が絶滅するとしたら、何をしますか?(ムー)

A:家族と過ごします。

Q:生まれ変わったら、また佐藤可士和になりたいですか?(りん)

A:いいえ。同じ自分は面白くないので、まったく違う人に生まれ変わってみたいです。

Q:佐藤可士和さん、こんにちは。可士和さんの人生で大切にしている価値観を教えてください。よろしくお願いします。(黒木牧生)

A:真っ先に頭に浮かんだのは「新しい」という言葉です。やっぱり新しいものをつくり、新しい価値を提示したいです。とにかく前を見て進んでいきたいと思っています。

Q:休みの日はどんな過ごし方をされていますか?リフレッシュの方法を教えてください。(花)

A:なるべく子どもと遊ぶようにしています。

「PARTNER」

Q:悦子さんとのパートナーとしてのご関係についてと、尊敬しているところを教えてください。 (国分涼子)

A:お互いに向き合って立っていて、自分の目が届かない後ろ半分、180度を見てもらっているようなイメージです。二人合わせてぐるっと360度をカバーしているような関係でしょうか。僕が出来ないことをすべてできるかけがえのないパートナーです。

Q:奥様の悦子さんとはお仕事もプライベートもご一緒ですが喧嘩することはありますか?また、そんな時はどちらが謝りますか?(わこ)

A:喧嘩はしませんが、よく議論はします。お互い思ったことを感情的にならず、どうしてそう思うのかの理由を含めて伝えあえば喧嘩にならず議論になります。

ページの先頭へ